レッツ☆らぶらぶ大作戦! 〜その名は○○○ぃ・後日編1〜


新緑色の頭に、ピンクの帽子をすっぽり被り。
黄色の服から短い手足を覗かせて。
花色の羽でふわふわと、お話を求め北へ南へ。
「Pi〜Pi〜Pi〜〜〜、Pi〜Pi〜Pi〜〜〜・・・」
大好きな本を抱えて今日も行く、その妖精の名は―――。

「あーーーーーっっ、見つけたぁ!!」

「Pi?」
振り向く間もなく、ちょい、と襟首を摘まれる妖精。
くるりと向かされた先には、誰あろう、魔法の腕以上にその比類なき幸薄さで有名な冒険者・サファイアの顔があった。

「もうっ、こないだすっごく大変な目にあったんだからね!」
サファイアは妖精を覗き込み、怒った顔をしてみせる。
しかし、なにぶん耳まで赤い為、まるで迫力が無い。しかも何があったのか容易に想像がつく辺り、気の毒を通り越して微笑ましさすら覚えてしまう。
「Pi?」
そんな訳で、当の妖精にもとぼけられる始末。
「忘れたフリしても駄目!」
「Pi〜?」
「…、ご機嫌とっても駄目。私、怒ってるんだからね」
「Pi〜〜〜?」
「………、ま、いいけど」
…許すらしい。幾ら義兄以外には寛大だとは言え、少々早過ぎはしまいか。
ともあれ、可愛い妖精を掌に乗せ直したサファイアに、また別の声が届く。
「あーびっくりした、急に走り出さないでよねえ」
「わ、わ! サファイア、それなぁに?」
リーダーに追いついたのは、カルラとルルアンタ、それにオイフェの3人。女だけで冒険してきた帰り道だったのだ。
サファイアが口を開くより早く、妖精はルルアンタにふよふよと近付いていった。
「Pi、Pi〜♪」
「こんにちはぁ! へえ、ゼネテスともお友達なんだ?」
「ってちょっと待った!」
いきなり普通に会話を始める2人を見、サファイアが慌てて割り込む。
「ルル、あなた妖精の言葉が解るの?」
「わかるよぉ、ルル達は妖精さんに近いもん。オイフェもそうでしょ?」
知られざるリルビー種族の秘密をあっけらかんと明かし、ルルはエルフ種族の女性を振り返った。しかしオイフェは気まずそうに明後日の方を見遣る。
訝るサファイアだが、謎はすぐに解けた。
「ところでサファイアぁ、ゼネテスとこの前いっぱい仲良くしてたってホント?」
「きゃああああっっ!?」



「…それはともかく、貴女を見込んで一つ、お願いがあるの」
数分後、色々なものを必死に誤魔化して嫌な汗を流したサファイアが、改めて妖精に向き直った。
「さっき『大変な目に遭った』って言ったじゃん」
「それはそれ、これはこれ。今度は困られないもの…多分」
些か自信なさげだが、妖精は気にならないのか、瞳を輝かせて待っている。
「私のお友達の恋をね、叶えて欲しいの。聞いてくれる?」
「Pi―――!」
…元気一杯に右手を上げる妖精を見て、今ひとつ不安を拭えないメンバーだったが、とにかく計画は動き出した。







「―――ソレイユさん、こんにちは!」
数日後。とある街の宿屋に滞在していたソレイユは、待ち人の姿に腰を上げた。
「サファイアさん!」
「よお、戻ったか……ん?」
馴染みの少女―――今は美貌の女魔道士として名を馳せている―――を相手していたゼネテスも立ち上がり、部下の手元に目を留める。
「Pi!?」
「そいつ、こないだの妖精じゃねえか?」
「…妖精…? わあ、小さい……可愛い!」
ソレイユはサファイアの掌、恥ずかしがって本の陰に隠れた生き物を覗き込む。
「ね、可愛いでしょ?」
「悪戯好きだけどな。今度はどんな悪戯を思いついたんだ?ん?」
脇から、ゼネテスがひょい、とその薄い羽根を摘みあげた。
「Pi〜〜〜〜〜!!」
哀れ妖精、本を抱えたままじたばたするも、逃げられない。
「ゼネテス、苛めないの!」
前回は失敗したが、今度こそぴしゃりと言い放った副官。
その言葉に、男はにやりと口端を歪め。身を屈めて相手の耳に唇を寄せた。
「…その悪戯に嵌って、日が暮れるまで◎×☆で▼◎※Σのは誰……」
「あーーーところでねソレイユさんっ!!」
ばん、と傍らの机を叩いて、サファイアが強引に話を変える。三者の騒ぎをきょとんと眺めていた少女は、はっと背筋を伸ばした。
「今回、アンギルダンのおじさまはご一緒?」
旅のパートナーの名を出され、ソレイユの滑らかな頬がうっすらと染まる。
「あ…は、はい」
「…もし宜しければ、今夜のご夕食、私も同伴させて頂けないでしょうか?」
居住まいを正し、胸に手を当てて魅惑的な笑みを浮かべる女騎士―――因みに本人は、ただ真面目な顔をしただけのつもりである―――の申し出に、一も二も無く頷くソレイユ。仲良しな上に、彼女を臆面無くレディ扱いするサファイアとの時間は、ソレイユにとって何とも不思議で夢の様な心地なのだ。
「ゼネテスはお留守番ね。ルルアンタ達と一緒に、ご飯食べてて」
「ンだよ、仲間外しか?」
不満そうな上司の手から、妖精を奪い返すついでに、副官は鋭く囁く。
(貴方が来たら、おじさま、貴方としかお話しにならないでしょ!?)
(…なるほど、そういうコトか。けど、そいつで上手く行くか?)
(……だって、他に何か方法残ってる?)

―――そう、今回のターゲットは、アンギルダン・ゼイエン。
年若く美しいソレイユが、自分に想いを寄せているとは露ほども思わず、なのに近頃彼女を意識してしまって悩んでいる、ちょっぴり不器用な老将である。
当のソレイユは勿論、ゼネテスやルルアンタ、他多くの仲間達が尽力してきたにも関わらず、今一歩進展しない2人の仲。
神頼みすら効かないなら、妖精頼みしか無いではないか。

(よっしゃ、宿の準備は任せとけ。ムード満点に設えとくぜ)
(…それはどうかと思うけど……うん、お願いね)
先程とは打って変わり、意気投合した様子で腕をぶつけ合わせる主従。
「???」
「Pi―――――――!!」
鳶色の瞳を瞬かせるソレイユの手の中、ようやく落ち着いた妖精が、嬉しげに囀った。





よん様に頂いたSS「その名は○○○ぃ」(宝箱入り)に悪乗りして書いたお話です。
宝箱の部屋に置いていましたが、今回こちらに移動しました。
…それにしても、何故私が書くとこんなに不幸になるんでしょう?



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