Rouge and Genuine Love -キミノヒトミニコイシテル-




「―――ああ、君か。何の用だ?」



通された部屋、主の台詞はいつもどおり。
まぁこういう人だって分かってるけど。

(今日ぐらい、ちょっと違う反応くれたって、いいじゃない?)



ここはエンシャント城内、宰相閣下の執務室。
私みたいな冒険者(しかも実はロストールの貴族)が来ていい場所ではない筈、
…なのに、当の本人に“素質”を気に入られて、出入り可能になってしまった。
(けど、どうせなら見た目で気に入ってよね)
自分で言うのも何だけど、結構いけてる方だと思うのだ。
さらさらの髪とか、キレーな肌とか、脚の長さとかその他諸々。
(お堅い宰相さんは、そんなの興味ありません…って?)
私の仕事内容や功績は、リアルタイムで分かるくせに。

知っている。お忙しいこの人が、冒険者ギルドを通じて、私について調べた事。
どーせ目的は“ネメア様の障害にならないか”を知る為なんでしょうけど。



…あそこの書類には、私の誕生日も書いてあるのに、な。



「以前、仰ってたでしょう? 無限のソウルって、何ですか?」

癪なので、わざと関係ない事を聞いてみる。
綺麗に見えるよう、上手く光が当たる場所に立って。
自慢の足が見えるように、ちょっと角度を変えたりして。

「ああ…、その事についてなら」

―――なのに、この宰相さんは、顔色一つ変えやしない。

(何よ、もう!)
面白くない面白くない面白くない。
折角のありがたいお話も、悔しくって上の空。
…声は、しっかり聴いてるけどね。

いい声だと思う。低く抑えられた、流暢な帝国公用語。
(朝礼とか軍議とか、この声で喋るんだろうなー…)
顔もかなり整ってる。頭も切れる。剣や魔法の腕も高いと評判だ。
…これで髪型と性格がマトモなら、彼の親友と人気を二分するでしょうけど。
(いや、それが一番問題なのかな)

「…さて、私は執務に戻るが、…まだ何か?」

いつの間にか、ご講釈は終わったらしい。
いーえ、と肩を竦めて背を向ける―――そこに掛かる声。



「そうだ、そこの棚に包みがあるだろう。持っていくといい」



思いも寄らない言葉に、心臓が跳ねる。
目で合図された先―――扉脇のチェストの上に、小さな紙包みが1つ。

「…開けても、いいですか?」
悲しいかな、期待より用心が先に立つのは冒険者の性。
「中を改めるか。それでこそ無限のソウルの持ち主だ」
…なんだか微妙に嬉しくないけど、機嫌を損ねるよりマシか。
取り敢えず手に取って、広げて。出てきた物に目を見張った。



星の模様がちりばめられた柄の先。
金のラメが入った、私の瞳より少し深い、青の色。
いわゆる、アイライナーという奴だ。



「君に似合うかと思ってな。女性は、そのような物を使うのだろう?」

―――もう一つ、悪い所を挙げるなら、時々漏らす心臓に悪いセリフだ。



(落ち着け! 落ち着け私ッ)
似合うとか言われた位で。今さら化粧道具とか貰った位で。

て言うか、どうせくれるなら口紅でしょ?普通。
やっぱどっかズレてるって。
いやその前に、頭トンガったままで化粧品のお店に入ったっての?
…あり得ない。

「メイド長さん辺りから“一本余ったんです”とかって渡されたんじゃないですか?」
「…鋭いな」

うわっ、溜息吐いてくれやがった。
こ〜い〜つ〜。

「必要ないのなら、置いていっても構わんが?」

「………頂きます」

ポケットに収めて、上からポンポン、と叩いて。
ちらと視線を向ければ、何事も無かった様に書類仕事に勤しむ姿。
(…こ・の・朴念仁!)
胸の中で思いっ切りアカンベして。



―――こんな鈍い人、私以外の誰が、好きになってあげられるだろう?



ふと、尖らせた唇が、緩む。

―――まぁ、いいわ。
この色を見て、私を思い浮かべてくれただけ、進歩じゃない?










無限の魂の持ち主が、足音軽く立ち去って、暫くあと。



「………」

羽根ペンで紙を擦る音が、不意に止まり。
続いてカタン、と小さな音が響く。



「…“会いにきた”とでも言うまでは、な」

引き出しの奥に転がる、掌に隠れるほどの銀色の光。
ローズブラウンの口紅を潜めたそれ。



知らず浮かんだ微笑を、ふ、と消して。
引き出しを元に戻した宰相閣下は、執務を再開した。







宝箱部屋に、長らくこっそり置いておいたものです。

「あそびば」管理人・めーこ様の女主人公さんをイメージした…つもり;
お名前がカネ○ウの化粧品ブランドに由来すると伺って、
美貌のケイトさんに似合いそう(かも知れない←自信なし)な色を絡めてみたのですが、
まさかアップして頂いた挙句、挿絵を付けて貰えるなんて!
海老でも鯛は釣れるのです。何事もチャレンジしてみるものですよ、皆さん!




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