第2週:『真・レジェンド刑事』最終章その1
「ステイト・オブ・アフェアーズ」


<適当な粗筋紹介>
 超絶美形の敏腕刑事レムオンと、新米女刑事のサファイア。
 いがみ合ってばかり(正確にはサファイアがレムオンに噛み付いてばかり)いた2人の間には、今や堅い絆が結ばれていた(相変わらず仲は悪いが)。
 そんな折、彼らロストール署の管轄にもテリトリーを持つマフィア組織「バイアシオン・ファミリー」が、大掛かりな取引を行うとの情報が流れてきた。
 情報の真偽を確かめるべく、レムオンは単身、組織に潜入する……。



「納得出来ない!! 何故こちらから動かないんだ!?」
バアン、と机を叩くのは、捜査一課で唯一の女性サファイアだ。大地色の瞳を怒りに燃え立たせて、課長席に座る上司を睨み付けている。
その苛烈な瞳を真正面から受けて尚、ボルボラは下品な笑いをやめなかった。
「ゲヘヘ…しょうがねえだろ? 何せこっちにゃあ証拠がねえんだ」
「レムオンが送ってくる書類があるだろうが!」
「マフィアのお膝元から送ってくる与太話なんざ信用出来るかァ? あんな若造だ、とっくにデカだってバレて、無理矢理偽の話書かされてるかもしれねえんだぜ?」
「…だったら、何故潜入させた」
サファイアが握る机の縁が、めき、と音を立てる。
「あいつが行くって言い出したんだろうが。グヘ…」
「―――っざけんな」
サファイアは知っているのだ。前警視総監の孫であるレムオンが実は不義の子であった事、それを盾にしてボルボラが彼を潜入捜査に向かわせた事。いずれボルボラの席を覆すであろうレムオンを死地に追い遣って、自身の安泰を図ろうとしている事も。
しかし、当のレムオンが黙って課長命令に従った以上、サファイアもそれを表沙汰にする訳にはいかない。
そうと知っているボルボラは、肉塊を積み重ねた様な頬を震わせて、一層卑しい笑みを浮かべるのだった。
「サファイアよォ…あんまり俺を怒らせるな? お前のクビは俺にかかってるんだぜェ、グヘヘヘ…」
「………っ、失礼する!!」
再度机を思い切り叩くと、サファイアは歯軋りも聞こえんばかりの表情で踵を返した。
足音荒く部屋を出る新米刑事の後姿に、ボルボラは「ゲヘ…いいケツしてやがる」と体中の肉を震わせ、同僚達は心配そうな視線を向けて、だが結局溜息を吐くばかりだった。

(畜生……畜生、畜生ッ!)
署の地下一階、鍛錬場外に備え付けられた水道の蛇口を全開に捻って、その滝の様な流れに頭を突っ込むサファイア。
叩き付けられる水で頭を冷やそうと試みるも、ザアザアという音で外界から遮断され、思考が内側に向かうのを止める事が出来ない。
(こうしてる間にも、レムオンの奴が……)
―――2ヶ月。もう2ヶ月になる。
世界に数あるマフィアの中でも最大級の組織「バイアシオン・ファミリー」にレムオンが入り込んでから、2ヶ月弱が経過していた。その間、サファイアやセラ、ナッジといった一課の刑事達は、日々届く報告を目にしながら何も手を出せない有様なのだ。
“レムオンの奴が帰ってきてから、報告書を作らせる。捜査はその後だ”
…それが課長であるボルボラの言い分だった。冗談ではない、とサファイアは思う。レムオンが戻るのは予定でもあと一月以上先、そんな悠長な事では取引が終わってしまう。
実際、レムオンから密かに届けられる報告書からは、冷静さは失われていないものの明らかな苛立ち―――幸か不幸か、何度も生死を共にする内に、サファイアは彼の怒るタイミングや無言の激昂度が判る様になってしまった―――が感じ取れた。それが余計に女刑事の焦燥を募らせる。

―――心配している訳じゃない。
―――あいつの腕を、信用しない訳じゃない。
只、動けないのが酷くもどかしいのだ。

どれだけ実力があろうと、所詮彼女は新入り。上司の命令には従うほか無い。
特にサファイアには、まだ高校生の弟が居る。既に両親亡き身では免職などとんでもない話だ。
…だからこそ、どれだけいがみ合おうと嫌味を言われようとレムオンと組んで仕事をこなしてきたのだが、今はその怒鳴り合いさえも懐かしい。
考えるよりまず行動する彼女にとって、只待つだけという状況は、かなり堪えた。

「……さっさと情報掴んで来い、馬鹿」
この場に居ない“相棒”に八つ当たりして、サファイアは乱暴に蛇口を閉める。

びしょ濡れの頭を拭こうと、タオルを置いた場所に手を伸ばすが、指に触ったのは冷たいタイルの質感だけ。
「……?」
「豪快だな」
笑いを堪える様な声と共に、ぱさ、と頭に何かが被せられる。
ぎょっとしたサファイアが身を起こすと、すぐ後ろに、見覚えの無い男が立っていた。
レムオンも大概背が高いが、この男も相当大柄である。
加えて、潔癖な印象のあるかの青年に比べ、やけにざっくばらんな―――悪く言えばだらしのない外見だ。警察に用事で来たものの迷った部外者だろうか。
「初めまして、かな。俺はゼネテス。今日付けで本庁から配属されてきた」
…だからそう言われても、サファイアは暫く理解が追いつかなかった。
「……え、は……ええ!? 本庁って、どうして…」
「まあちょっくら、あんたの相棒の仕事を手伝いにな」
「レムオンの?」
「って事ぁ、やっぱりあんたがサファイアか。捜査一課の期待の新人だってな」
鎌を掛けられたと気付いて、頬を軽く紅潮させるサファイア。
それに構わず、ゼネテスと名乗った男は「宜しくな」と手を握り、ふと声を潜める。
「…男勝りなのはいいけど、あんましそういうカッコすんな? 目の保養になっちまうぜ」
言われてサファイアが相手の視線を追うと、濡れて身体に張り付いたブラウスが、下着と肌の色まで透けさせていた。
「―――!!」
今度こそ真っ赤になった彼女に、改めてタオルを引っ掛けると、男は笑い声を上げながら立ち去っていく。

(な…っ、へ、変な男……!)


 


念の為。今回は(も?)恋愛要素ありません。…多分;;

これでレムオンに何かあったら、真っ先にボルボラが辞めさせられると思いますが、
日本じゃないので事情聞かれて終わりでしょう。こんな時だけ都合良く外国仕様。


祭部屋へ戻る