第2週:近未来パロディ『真・レジェンド刑事』(笑)


※先に元ネタをご紹介。
・共催者(寧ろ主催者)とも様が描かれた二丁拳銃のレムオン
(色付きで描いておられます。死ぬほど格好良いです。行くべし!)
「いきなり次回予告」さん(名前を3つ入れてボタンを押すと、ランダムで愉快な文章が出来る、お遊びCGIサイト)で引き当てた1文
 サファイア「誰がお前の助けなんか借りるか!」
 レムオン「フッ、こちらこそ」
 シャリの罠に掛かり、脱出不能と言われる海上刑務所に送られたサファイアとレムオン。
 敏腕刑事二人に襲い掛かる、悪人達の復讐の刃!
 脱出の手がかりを求め、サファイアは獄中のチャンプとの闇試合に挑み、レムオンは特別独房の謎の老人に知恵比べを挑まれる……。
 次回『真・レジェンド刑事』、『ダブル・デュエル!』に乞うご期待!

(マジでこれが出ました。凄ぇ;)

お二方に心から感謝しつつ、現代パロスタートっ!


--*--*--*--*--*--*--


『真・レジェンド刑事』 第?話「ダブル・デュエル!」

「ク……どっちだ?」
一つは行く手を阻む鋼鉄の扉、今一つは先の見えぬ真昏き通路。
小部屋を出て1時間、初めて現れた分岐にサファイアが呻きを洩らすと、隣に立つ青年が束ねた金髪を軽く揺らして応じる。
「出口に繋がる方が正解に決まっていよう」
「あんたね…」
この相棒―――サファイアには不愉快この上ないが、何故か毎度毎度コンビを組む羽目に陥っている―――が、少しでも取り乱す所を、サファイアは見た事が無かった。
何時だって冷静そのもので、血が通っているのか否かすら怪しい。
これで署内きっての人気刑事だというのだから、世の中とはわからないものだ。
(美形だったら何でもいいのか? 性格なんか唯我独尊で最悪なのに)
…尤も、人気の理由は金髪に縁取られた美しい容貌だけでもあるまい。冷徹と思わせる程に明晰な判断力、そして署で唯一人、二丁銃を使いこなすその腕前。経歴とてエリート中のエリート。彼と組まされる度に嫌な顔を隠さないサファイアの方が、周りから不思議がられているのが現状なのだ。
(みんな、こいつの素顔を知らないから、好き勝手言うんだよな…)
そんな敏腕刑事に、毎回嫌味を言われ、本来新人が担当すべきではない大事件に付き合わされて、結果必ず被害を蒙るサファイアだった。今回も連続テロを企てているらしい宗教集団を追う最中、爆発に巻き込まれ、気が付けば泣く子も黙る絶海の孤島―――俗に「竜王の島」と呼ばれる凶悪犯収容所に放り込まれていたのだ。
IDカードを取り上げられた為か、こちらを警察と認識せず攻撃してくる、監視装置やゲノムタイプの看守達との死闘を思い返し、ぞっと肩を竦めるサファイア。
その傍らでレムオンは、事も無げに「2人居るのだ、二手に分かれるしかあるまいな」と呟く。
「…おい、正気か? またさっきみたいなのが出たらどうするんだよ」
「何だ、怖気づいたのか?」
「……、そんな繊細に見えるか?」
―――否、怖くない訳が無い。彼と違ってサファイアは女でしかも新米刑事なのだ。
それでも反射的に跳ね除けてしまうのは、この青年の口調が彼女の癪に障るのと、何より無様な姿を見られたくないという自尊心からだ。
少しでも頼りたがっていると思われたくなくて、顔を見られぬ角度で銃の装填具合を確認するサファイアを見下ろし、レムオンは「…相変わらず無謀な女だ」と唇端を歪める。
「何か言ったか?」
「貴様はその図太さだけが取り柄だなと言ったのだ」
「あーそうですかっ。ったく…で? どっち行くんだよ」
「左だ」
「…私に選択権は無いのかよ…」
サファイアは息を吐いて、右側の通路を見据えながらガチャ、と拳銃を構える。
「何なら、一緒に行ってやっても構わんぞ」
…その耳に届いた、レムオンの余裕を滲ませた声が、サファイアの闘志に油を注いだ。
「はぁ!? ふざけんな、誰があんたの助けなんか借りるか! あんたこそ一人になった途端道に迷ってんなよ!」
「フッ、それはこちらの台詞だ」
言うと、レムオンは音も無く銃口を扉の錠に突きつけた。
「…競争だな。あんたと私と、どっちが先に出口に辿り着けるか」
「一方の道が出口なら、一方は確実に地獄だぞ?」
「だったら全員蹴倒して此処に戻るまでさ」
強気な台詞に、2人は同時にふ、と笑う。

―――ドォン!

至近距離で撃たれた弾が、扉を支えていた錠を粉々に砕く。
けたたましく鳴り響く警報をBGMに、2人の刑事は其々の通路へと飛び込んだ。


--*--*--*--*--*--(中略)--*--*--*--*--*--


少なくとも自分の道は確実に外れだった事を、サファイアも認めるしかなかった。
通路は只管下層へと続き、看守を避けて飛び込んだ部屋は選りにも選って囚人達を詰め込んだ大広間。新参者を捕まえようとする手から逃れる内、何故だか彼等の輪の中心で、一際屈強そうな男と対峙していた。
久々の見物だぜ、と下世話な野次が飛ぶ。
どうやら此処では、暇や鬱憤を持て余した囚人達が、頻繁に力試しを行っているらしい。
そんなものに付き合ってられるか、と苛立ちながらもサファイアが留まっているのは、野次の中に「無敗のレーグを倒せば、流石の看守もビビって脱出方法を漏らすかもな」との声を小耳に挟んだからである。
そのレーグと呼ばれた男は、今しも囚人服を脱ぎ捨てた処だった。
身の丈2メートル以上の体を被うのは全て筋肉、手にした二本の刃は、小柄なサファイアの胴よりも幅広い。
「…うぬには、我は倒せぬ」
刺青を施した顔が無表情に呟くのに、そうかもなとは思いつつ、サファイアは口に出しては「勝負は時の運、ってね」と言うに留めた。
「けど、私が銃ってのはフェアじゃないよな―――おい! 誰か剣貸してくれ」
サファイアが周囲に向けて怒鳴ると、笑い声が一層大きくなったと共に、レイピア程度の剣が飛んできた。其れを片手で受け止めた女刑事だが、汚れた装飾に眉を寄せ、鞘から抜いて更に顔を顰める。
「錆びた剣か……ファンタジーでもあるまいし」
それでも鉄であるだけマシか、と薄く錆付いた刀身を抜き放ち。鞘を投げ捨てると、半身を引いてレーグに切っ先を向けた。
剣道ともフェンシングとも違う、妙に戦士らしい構えに、囚人達から口笛が飛ぶ。
…しかしそれらが、必ずしも好感情の発露ではない事を、サファイアは粘り付くような視線から感じ取っていた。
この状況下で、女である自分が敗北したらどうなるか(もしかすると男でもあまり変わらないかも知れないが)、察しは付いている。
だから尚更、負ける訳にはいかないのだ。
(それに、あいつとの勝敗も、決まった訳じゃないし)
サファイアの脳裏に、あの怜悧な表情がちらと浮かぶ。
不思議なもので、自分と似た様な苦境に彼が立たされているとは、どうしても想像出来なかった。彼なら必ず、この刑務所から脱出する手がかりを見出している事だろう。
(さっさと追い付かないとな)
微かに笑みを刷いて、サファイアは相対する戦士に意識を集中させた。

地響きの様な歓声が、黴臭い壁を揺るがす。
「…始まったようじゃな」
独房の最奥、セメントで出来た段に腰掛けてくつくつと肩を震わす老人に、レムオンは冷たい視線を投げた。
「始まっただと? 何がだ」
「若い衆の唯一の楽しみじゃ。ああして新入りが来る度に、寄って集っていびり倒す。血反吐を吐くまでの。新しい罪人が来るとは聞いておらんから、おおかたお主の相棒でも捕まったのじゃろうよ」
レムオンはその言葉に、表面的には微かに眉間の皺を深めただけであった。
(あの馬鹿女め……)
「心配かね? ならば斯様な老人など捨て置いて、助けに行ったらどうじゃ」
先程から老人は、声を出さず、ただ肩だけで笑っている。
髪の全て抜け落ちた頭、背中を曲げた小さな身体は一見弱々しく、しかしぎょろりとした眼に宿る光が一種異様な形相を醸し出していた。
「心配には及ばん。あいつはああ見えて骨のある女だ」
言うと同時、第二の歓声が届く。今度は僅かに表情を強張らせた青年に、老人が「目は口ほどにものを言う、と言ってな」と笑った。
しかし、それは老人とて同じ事。
相手の目に一瞬、興味深そうな光が掠めたのを見て、レムオンは囚人達の騒ぎが老人の思ったとおりには運んでいない事を悟った。
(そう…あの女が、簡単にやられる筈が無い)
配属されてまだ1年経たない新米刑事だが、サファイアの実力とその成長ぶりには驚嘆の念を禁じ得ない。先程の戦闘にしても、あれだけ立ち回り出来る刑事を、レムオンは他に知らない。多少無謀で甘いという欠点も、経験を積む内に緩和されよう。
そう結論し、レムオンは改めて、卓を挟んで向かい合った老人を見遣る。
「それよりも―――ゾフォルといったか。此処に収容された罪人の最古老にして最大の罪を持つ者……宗教集団の蓑を被ったテロ組織『システィーナの伝道師』の祖であり、バロル軍事政権を煽って独裁と暗黒の時代を齎した、史上最悪の政治犯」
「昔の話じゃよ。それにあの時代が暗黒とは限らん、輝かしいと見た者も居た。狂ったバロル帝の様にな」
「貴様なら、俺が此処に来た目的もわかる筈だ」
「その答えもな。生憎、それは教えられぬ」
「何故だ」
「お主がわしとの勝負に負けるからじゃ、若造よ」
そう言うと、かつて自身を“妖術使い”と称して世界を混乱に陥れた老人は、傍らの杖を手に取った。
「知恵比べに付き合わんか、若いの。わしは退屈しておる。わしに勝てたなら、この孤島から脱出する術を教えよう」
提案に、レムオンは暫し目を細め、やがて「いいだろう」と頷いた。
「物好きなものよ。さて何をやるか―――問答か? チェスか?」
「フ、勝負を持ちかけるなら、客人の得意なものでハンデをつける位が礼儀だろう。…これは使えるか」
青年は部屋の片隅へ赴き、埃塗れのカードの束を取り上げた。
何せ相手は、自らを予言者と嘯く男だ。レムオンは予言や超能力の類を信じないが、用心に越した事はあるまい―――カードゲームならば、純粋に記憶力だけで勝負出来るものがあるのだ。
札を検めるその背中を眺め、ゾフォルが「流石に油断がないな」と満足げに笑う。
「…一つ聞く。脱出法を知っているのなら、何故貴様は使わない?」
「その答えも決まっておる。此処が最も安全じゃからな」
「そうか」
予想済みの返答にレムオンは笑みを刷くと、カードをざ、と卓に広げた。


 


いざ勝負!ってトコでぶった切るのは、私の悪い癖ですね;;

次回は、2人の勝負も結末もすっ飛ばして最終章です(笑)。
今週も小話形式なので、真面目な連載ではなく美味しい部分だけの描写になります。


祭部屋へ戻る