九龍妖魔学園紀〜2.蜃気楼の少年〜
●何気有り過ぎな朝の風景
「おッはよ〜ッ!!」
…朝っぱらから脳天を突き抜ける様な声。寝不足も吹っ飛ぶわ。
頭を抱えるオレに構わず、昨夜の墓地の一件で盛り上がる八千穂。お前、頼むから教室でそんな大声でオレの仕事をバラすなよ…。
そうそう、どうせこいつには言っても判んねえかと思って、俺がトレジャーハンターだって事言っちまったんだよな。案の定、スパイか何かだと勘違いしたみてーだし(そんなに難しい英語でもないと思うんだが、まあ現実味の有る職業でもないしな)、察しの良さそうな皆守には話してないから、大丈夫だとは思うんだが。
それにしても八千穂の奴、シナ作ったかと思ったら、連れてかなきゃ秘密バラすって脅しやがるし。女ってホント変わり身早ぇよな。
「いや、その日本語は間違ってると思うぞ」
うるせえぞ、親。わかってるなら助けやがれ。
「無理」
………。
ともかく、オレは今夜も墓地にこいつを同行させると約束させられちまった。何か…プリクラっての? そんなのまで貰うし。…う。可愛いじゃねえか。
「ったく、すぐほだされるんだからな」
う、うるせえっ!! てめーだって「コレあげる。皆には内緒だよv」って声に一瞬ときめきやがった癖に!!
大体、そんな感動も、騒ぎを聞いていたらしい白岐の「墓地へ行ったの…?」という突っ込みや、七瀬(昨日の図書室の眼鏡っ子だ)からの『八千穂さんから聞きました』メールで綺麗さっぱり吹っ飛んださ。あんのアマ、連れて行くのやめたろかっ。
そして。昨日で個性的な面々はいい加減出揃ったかと思ったら、更に強烈な奴に遭遇。
「ザラザラした石を見ると、舐めてみたくならない?」
…皆守、オレが悪かった。お前の胡散臭さなんて、この黒塚って奴とは比べ物にならないよ。つか、素で怖ぇ! オレをここまで怯えさせるとは何者だコイツ!!
何時の間にか後ろに居た雛川先生には、勘違い的な同情されちまうし。
その上、「高校時代はラクロスをやってたから、力もあるのよ」って…。あの、まさか先生まで敵候補なんですか?
だがしかし。止めを刺したのは、やっぱり皆守だった。
「八千穂から聞いたんだが、お前、トレジャーハンターなんだって?」
…いやー、凄えな。何にもない廊下でもコケると派手な音すんだなーあはははは。
八〜千〜穂〜あんにゃろ!! 後で絶対シメる!!ペンギンも真っ青な位絞めてやるぞコンチクショウ!!
●どの行動が君のお気に召したんですか
オレがコケたちょうどその時、大事件発生。
只ならぬ悲鳴にオレと皆守が反応して(皆守の奴、外見はホント無気力なのに、ノリは妙にいいよな)、駆けつけてみると、音楽室にミイラが…じゃねえ、手だけがミイラみたいになっちまった女の子が倒れていた(これまたプレイ自体が夜中だったので、親は真っ青になっていた。…もしかして怪談とか苦手なのか?)。
つか、手が干乾びるってフツーに嫌過ぎる。
皆守は保健室に運ぶぞって言うけど、お前、運んだ所でどうやって治すんだよコレ。
運んだ先では、これまたえっらく顔色の悪いデカイ男子生徒(多分、昨日音楽室にいた幽霊みたいな奴だ)がいるし、姉御みたいな態度デカイ校医がいるし。オレも親もどうすりゃいいんだってパニックになっちまって、出てくる選択肢も全部適当に押しちまったんだけど、一応全部「♪シャララン」って正解っぽい音が鳴ってたから、いいのか? いいのかな…。
そう言えば、この顔色悪い取手って奴と、校医のルイ先生と、合わせて二回自己紹介したんだけど、その間一緒に居る皆守は相変わらず<転校生>呼ばわりなんだよな。卒業までこれで通す気じゃねえだろうな、こいつ。まあいいけど。
取手はともかく、ルイ先生は気風が良くて、オレの事も結構気に入ってくれた感じだ。美人だし。雛川先生とは違う意味で、いい先生っぽいな。態度デカイなんて言ってごめんなさい。
「フフッ。礼を弁えている生徒は大好きだよ」
…ちょっと、おっかねえけど。オレって尻に敷かれるタイプか?
ともあれ、女子生徒を彼女に任せて、オレらは保健室を出た。皆守は屋上に行くなんて言ってるし。授業どうすんだよ。フケる気なのかな。
「じゃあな。転校生」
…あ、ほらな。全く、このままマジで―――。
「―――いや、葉佩九龍」
………え。えええええっ!?
ごめん、素で驚いてしまった。お前、オレの名前聞いてたのか! いやそうじゃなくって、わざわざ足止めて向き直って言うか!? あまりの劇的な変化に、親が思わずメモ取った位だぞ。
戦々恐々とするオレに、問答無用で押し付けられるプリクラ(しかもご丁寧に、八千穂が貼ってくれた欄の上。少しは遠慮しろよお前)。
それを見てドツボに嵌る親。ストレイ○ープにそっくりだってさ。知らねえよ、オレ。
でもホント、こいつの人格をここまで的確に表したものもねえよな。詳しくはゲームで見てくれ。
「俺も気が向けば、お前の夜遊びに付き合ってやるよ。墓地に行く時は教えてくれ」
………夜遊びって言うな。仕事だ、仕事。つか誰が教えるか。
其処まで考えて我に返る。このプリクラって、バディ(仲間)って意味? まさかとは思うけど、オレ、どうみても素人なこいつらを連れて、墓地に潜らなきゃなんねえの!?
あ、でもこれで八千穂と皆守への疑いは晴れた訳だ。あの妙な親切さは、仲間になる為の前振りだったのか。ちょっと安心。
…けどよ。プリクラを貼った手帳の欄って、あと5ページもあるんだけど。
もしかして、ラクロスな雛川先生とか、両手で本抱えてた七瀬とか、さっきの腕の長い取手とかも、仲間になったりすんのかな。
…オレ、ロゼッタから除会(寧ろ処分)されそうな気がしてならねえ…。
●熱き友情物語
校舎中を連れ廻された昨日と違って、今日の昼休みは自由に移動出来た。
無論、オレが真っ先に取り掛かったのは八千穂捜索。よくも皆守にばらしたな!
「わわッ、葉佩クン! ごめんね、あの後皆守クンに色々突っ込まれちゃって、誤魔化しきれなくなっちゃって…」
…へ? あいつが、聞いてきたの?
何か…やっぱり、警戒した方がいいのかね? けど、敵だったら、さっきの女子生徒も助けねえで放っておくよな普通。
つか、今のオレにとって敵って、誰よ。
うーん…。まあ、いいか。八千穂が率先してバラした訳じゃなさそうだし。
「よかったァ〜。安心してッ。まだ、他の人には何もしゃべってないしッ」
………嘘吐け。七瀬にばっちりバレてたじゃねえか。
その思いが通じてしまったのか、午後の授業が終わった後、問題の七瀬がやってきた。何でも天香学園について色々調べたのだという。
「葉佩さんは、天香山というのを知っていますか?」
…天の香具山? え、えっと、夏になると白妙を干すトコだよな。
「…お前、本当に超古代文明の秘宝を探す気があるのか? 高天原の山だろが」
放っとけ。まだ古事記も日本書紀も、大筋しか読んでねえんだよ。
オレの困惑を他所に、七瀬は詳しく説明してくれる。とにかく神話の上でも、歴史上にも重要な場所で、祭祀なんかも執り行われていたらしい。そんな名前を学園の(それも奈良ならともかく、東京は新宿なんて超繁華街の)頭に付けるなんて、勇敢つうか、無謀っつうか。
「もう一つ、天を欠く山との意味があります。天に向かわない山、という事ですが…」
天に向かわない山…? 逆ピラミッドみたいなもんか?
ともあれ、七瀬に礼を言って、今日も皆守と下校する(流石に今日は免疫がついて、『一緒に』とか言われてもびびらなかったぞ)。
が。その途中、またも悲鳴が聞こえた。
しかも今度は男だ。
つか、さっき保健室で会った、取手だ。
こっちへ走ってきた彼(ミイラ化はしてないっぽい)に、何故か八千穂と、更にルイ先生まで加わって、うわ…凄い顔ぶれ。…ん?八千穂それ帰り支度? 部活は?
「今日は早く上がったんだ〜。だってほら、墓地探索に備えていろいろ準備とかあるじゃない?」
「本気で行くつもりかよ?」
………いや、あの、君達。第三者や教師が居る前で、堂々とバラさないで下さい。
「…友人に恵まれてないよな。やっぱり不幸の星……」
〜〜〜放っとけっつの!!
そんな事より、取手は、さっきの悲鳴と関係あるかどうか判らないけどやっぱり具合悪そうで、ルイ先生のカウンセリングも受けてるって話だった。
だが其処から、何故か、取手をオレ達で救えるかどうかって話に発展しちまった。ちょ、ちょっと待てお前ら! オレは只のトレハンだってば、無限の魂の持ち主でもマナの女神の生まれ変わりでも天魁星でもねえぞ!?
だが、オレの困惑はやっぱり何処吹く風。
こんな時、無関心でドライな皆守と、初日からオレに校舎案内してくれた誰にでも親切な八千穂の意見は、ものの見事に対立する様で、そしてその結論は何故かオレに委ねられる。何でだよ。くそっ、前世の良い答えと悪い答えしかない選択肢が懐かしいぜ…。
しょうがねえから、良識と思われる意見を言って、するとどうしても八千穂寄りになっちまう訳で。
皆守、怒って一人で帰っちまった。あちゃ〜…。
まあ、墓地に行くのが一人減っただけでも儲けモンか。後は八千穂だが…ああ、お前はどうしても付いてくるのね。ルイ先生なんて、止めるどころか思いっ切り協力的だし。…この人もオレを試してるっぽいよな。
…駄目だ、何か全てに懐疑的になってきた。
そんなこんなで、探索準備の為に一旦寮に戻れば、皆守からメール。え、ちょっと待て、オレいつお前にメルアド教えたよ? あのプリクラの時か?
何々……『八千穂の言う事にも一理ある』だって。『俺も一緒に行く』だって。
何か…何て言うか、あのなあ、俺はお前らの青春ごっこの為に転校してきたんじゃねえんだぞ。生きるか死ぬかの大仕事だってのに、その場の感情で進退を決めるな、馬鹿。
…って普通の高校生に言ってもしゃあねえか。
しょうがないので強制的に解らせようと、墓地突入画面でバディから外そうとしたのだが……あれ? 『外す』ボタン押してんのに、何で外れねえんだよ。よく見りゃ手帳に奇妙なスタンプが……まさか、今回こいつら固定バディ!? げえっ、誰だよこんなスタンプ押しやがったの!!
●いざ墓地突入
墓穴を下りて、予想はしたがお約束の様にバディが落ちてきて。
だが予想が外れたのは、あの狭い穴からは想像も付かない程、地下の空間が広かったって事。う、迷いそう。
取り敢えず一巡りして、取れる宝物を取って、いざ一つ目の(其処しか開いてなかった)扉から侵入。敵が居ない事を確認して、怪しげな棺桶を調べてただの飾りと安心して、宝箱を開けた途端、その棺桶から敵が出てきた。―――生体反応寄越せよ!! ヘラクレイオンの時はちゃんと「生体反応有り」とか出たじゃねーかっ!!
…いや、それ以前によ。縄文か弥生に作られたらしい遺跡にエジプト風の棺桶があったり、縄文土器の中からエジプトのお守りが出てくるって、どうよ。歴史学専門の親がパニクってんだけど。
「まあ…古代のアフリカと南アメリカにも、交流があったらしいしな…不思議じゃあないんだろうけど」
はいはい、いいからオレをちゃんとコントロールしてくれ。あのミイラみてーな敵の包帯攻撃、見た目より痛いんだよ。しかしホンット攻撃かわせねーなオレ。
何度か戦闘を繰り返す内に、うちの親はようやく、よーーーーーやく、コツを掴んだらしい。AP(アクションポイント)ってヤツ、あれを退避用に残しておくって概念が、今まで無かったんだろうな。ああ、これで無傷勝利が出来るぜ。…多分。
開かない扉も二つ三つあるし、バディは相変わらず遠足気分だけど色々喋ってくれて(初心者が迷わない為の親切設定って奴だろう)、思ったよりすいすい先に進める。てか、進めど進めど先が有る。
…この調子で、あの広間の扉全部開けるのか…? いつまで掛かるんだよこの探索。
ま、まあいいや。深くは考えまい。
「…お、喜べロキソ…じゃない九龍。レベルアップしたぞ」
え、マジ!? やりい!…って、今までレベルアップした事に気付かなかったろ。
ボーナスは、俺一人にしか振り分けられないらしい。同行バディには何もないのか…。その代わり、こいつらには行動指示を出さなくて良いし、敵からのダメージも受けない。素人抱えてって焦ってたオレにとっては、かなり、気が楽な設定だな。
…ところで、オレのステータス画面についてる、妙に大幅なプラスやマイナスの数字って、何? 最初は無かったよな、こんなん。
「……(調べ中)……あ。もしかして、同行バディの影響?」
嘘っ! そんな事、説明書に載ってねえだろ!? H.A.N.T.(オレが持ってる小型情報端末。さっき皆守からメールが入ったのもこれ)のヘルプにも……あれ、出てら。
…って事は、この異常なAPとHPの増えっぷりは、皆守と八千穂のお陰か。
ヘラクレイオンの時より、何で強くなってるんだろうとは思ったんだよな…。遠足気分とか言ってごめん、二人とも。神妙にします。
「急に殊勝になったな」
うるせえなあ。それよりもう一つ、バディの右上の数字、あれ何だよ。
「…知らん。自力で調べろ、私は忙しいんだ」
あっ、てめ!…ってげげ、何だよこの<神官詰め所>とかいう部屋! 神官どころかバケモンばっかり狭い部屋にびっしりじゃねーかっ。くそ、とにかく爆弾で一掃…。
「爆弾は駄目。残り数が少ないから、ボス戦用に温存しとく」
〜〜〜!! 馬鹿、今ある危機に使いやがれ!! チキショウ、まだ3匹残ってるのにターン終了しちまったじゃねーかっ!! うわ、念波キタ! やられる! 傾ぐっ―――。
…あれ? 身体傾いたのに、画面が赤くならない。ダメージ、受けてない。
いやその前に。ダメージの時って、傾ぐっけ。
げ! また別の奴から念波!―――がっ!?
「あ〜、眠ィ……」
…今の声、皆守? 皆守サン?
もしかして、さっきから俺の体を思いっ切し押してんの、お前?
それで敵の攻撃をかわしてます? ひょっとして。
「………みたい。凄ぇ」
―――げっ!! 親の目が輝いてる。
やべえ、皆守あまり役に立つな! うちの親、どんだけ素性が怪しくても戦闘で無駄に役立つ奴とか、どんだけ性格に問題があっても技名が愉快で強い奴とかに、うっかり惚れちまう悪い癖があんだよ!!
「おい! 人を惚れっぽい女みたいに言うな」
事実じゃねーかっ! 某聖剣L○Mの時だって、最初は見向きもしなかったエス○デを、「奈落に落ちろ」が必殺技の名前だって知った途端、あっさり常駐にしやがっただろ!
「いいだろ、実際強いんだから!」
良くねえ!! あん時は女主人公だったが、今回オレは男なんだよ! 感情入力で「愛」とか指示されてもオレが困るんだ!!
「するか阿呆!! そんぐらいの常識はあるわっ!!」
皆守の居眠りでその場を凌ぎ、戦闘終了後に親がバディについてきちんと調べたお陰で、ボス戦はかなり楽に戦えた。
つか、今まで存在すら気付かなかった、八千穂のスキルが。
「いっくよ〜!」の掛け声で放たれる、スマッシュが。
何か、何か、オレの銃よりナイフより強いんですけど。ニ連戦だったボスも悉く粉砕しちまったんですけど。お前、試合で殺人スマッシュとか呼ばれてないか?
…そう言や、昨日も用務員を壁にめり込ませてたっけ、こいつ。
神業としか思えないかわし方をする皆守といい、…もしかしてオレ、とんでもない奴等を仲間にしちまったんでは…。
と、ともあれ、肝心の目的である取手の心は救い出せたらしい。
いや〜、一仕事終えると、例え夜の墓地でも清々しいよなっ。
「良かったな。…ところでお前、一番肝心な目的は?」
へ?………あああああっ!! 秘宝!! あんだけうろついて貝殻一個かよ!!……まあいっか。何かダチ増えたみたいだし。
「………お前、不二子ちゃんには見向きもされないタイプなんだろうな」
う・る・せ。いんだよ、オレは泥棒じゃねーんだから。
「悪いとは言ってない。いいんじゃないの、若くて」
………………、ちぇっ。
そんな訳で、色んな意味で意味深なエピローグを迎えつつ、今回の探索は無事終了したのでありました。
…ところで、手に入れた秘宝って、やっぱロゼッタ協会に送るべき?
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