九龍妖魔学園紀〜1.謎の転校生〜
 


●愛想笑い仮面・葉佩九龍

…プロローグから、いきなり半年以上放置されたこの状況を、素直に受け入れるオレって何て度量が広いんだろうな。
えーと、何か親がぶっ倒れたり仕事にてんてこ舞いだったりして色々大変だったらしい。悪かったな。―――ぐはっ!?
「阿呆! もっとまともに謝れ! 済みませんでしたっ」
〜〜〜っ、あのなあ!! オレは悪くねえだろ、寧ろ被害者だ被害者っ!!
まあ、親も一応は反省して、今回と次章は草稿はあったものの一度やり直して書き直したらしい。大目に見てやってくれ。尤もそのお陰で、オレは車椅子の男からの感情が間違いなく下がっちまったけどな。喧嘩売る様な選択肢ばかり選びやがって。くそっ…死んだらどうするつもりだったんだよ。

ともあれ、ようやく本題に突入だ。
見覚えのありそうな題名に、親はさっきから首捻ってんな。けどオレ、日本の現代文学には興味ねーから。無視無視。
「…ま、確かにお前の取り得は、暗号解読と宝壷叩き割りと笑顔仮面だけだもんな」
…っ、せめて甘いマスクと言いやがれ。大体、割ってる様に見える壷だって、ちゃんと解錠してんだぞ?
「嘘吐け。おまけに身長も無いし」
うるせえ! これから伸びるんだよ、成長期って言葉知らねえのか!!
「葉佩君? どうしたの?」
あ、いえ何でもありません、雛形…じゃなかった、雛川先生。
えっと、何の話だっけ…そうそう、天香学園3年C組に在籍する事になったんだ、オレ。
何つーか、あれだな、砂漠で死に掛けた時からするといきなり平和な世界だよな。光が差し込む教室、美人で親切な先生(そう、ここでいきなりオレの希望は達成された。やりい!)、そして紹介される、オレの嘘だらけの経歴。日本の生活に早く慣れるのが転入の目的…なんて初めて聞いたぞ。どうせロゼッタ協会が作ったんだろうな。うっ、良心が痛むぜ。
「はいは〜いッ! あたしの隣が空いてま〜すッ!」
そして、いきなり自分の隣の席を薦めてくれる、おだんご頭の女子生徒。
…って、ちょっと待て。今時の日本人高校生って、こんなに積極的なのか? 貰った情報と違うっつーか、あんまり親切にされると逆に怪しいというか…。
「その子の名前、何?…八千穂明日香? 何か、作為的な何かを感じるな……」
うるせえぞっ親っ!! オレに余計な警戒心を植えつけるんじゃねえ、愛想笑いが強張るじゃねーかっ!!



●謎なのは転校生よりも寧ろ

昼休みになると、オレは、頼みもしないのに八千穂というコに連れ出されてしまった。
いや、校舎ぐらい自分で見て回るから! 俺一応トレハンだし!
「おい、外国育ちの癖に、そんな日本独特の造語をするな」
だから黙ってろ親!!
とにかく、図書室では妙にオカルトちっくな眼鏡っ子に接近され(超古代文明と古本を熱く語られて、流石の八千穂も引き気味だった)、音楽室では幽霊!?と見紛う様な後姿を見てしまい、保健室は先生が居なくて空振り。つか、何で校舎案内でいきなり保健室が出てくるんだ…。
そして、売店で見かけた用務員に、ヤバげな雰囲気を感じて話しかけずにいた所(実は慎重派だったりするオレ)、とんでもないものを目撃してしまった。う、うわっ!! いいのかよ、18歳未満も対象だろこのゲーム!?(こんな事で焦りまくりの純情少年葉佩18歳。ホントに外国育ちかよ)
だが直後、更にとんでもないシーンを目撃。オ、オレ、生拳で人が壁にめり込むトコって初めて見た…。八千穂、恐ろしい奴。こいつにだけは逆らわないようにしよう。
それから上階に戻って、こんどは髪の長い美人と遭遇。
な、何か、また一気に雰囲気が重苦しく…。おっかねえ事言われたし。つか「そう、また転校生が…」って、同じクラスだよな? このコ。朝の紹介の時に居なかったのかよ。
…まあともあれ、ここまでの強制的情報収集で、墓地が怪しい、というより墓地に行かねばならない事がはっきりした。
オレとしては、何で学内に墓地があるんだよとか、オレ自身より元から居た生徒の方が謎めき過ぎだよとか、色々突っ込みたい所はあるんだけど。
そんで、今度は屋上に連れて行かれるオレ。相変わらずの流され人生だよな。
「ふァ〜あ、うるっせえな……」
ん? 今度の遭遇は男子生徒か。
はっ、さてはあいつだな? 全国の乙女(は大袈裟でも、恐らくかなりの数)のハートを鷲掴みにしたという、皆守甲太郎って奴! さあ顔を見せろ!
「………うわっ、苦手なタイプ………」
…あ、あれ? 乙女と評判の親の反応が芳しくねえな。
「途中は余計だ。とにかく、私は苦手。パス」
パスって言われても…。ははあ、アレだろ、初恋の相手がこういう咥えタバコでサボリ魔で服則違反の問題児タイプだったとか、そんなんだろ?
「やかましいっっ!! 余計な事抜かすなっっ!!」(ゲシバキドカッ)
い、いてててて…。図星を突かれたからって凶暴化するよな。
ま、ともあれ噂の皆守とも会話をして、朝から教室に居なかった割にオレが転校生である事を知ってたり(つか、今って9月だよな? さっきの白岐ってコといい、こんなにサボリだらけでいいのかよ3年生)、タバコと思ったのが実はアロマ(日本語で言い表しようがねえ。ありゃ一体どんな仕組みになってんだ?)だったり、色々衝撃の事実を知った訳だが。
…ごめん、突っ込んでいい?
こいつ怪し過ぎ。言動とか雰囲気とか、八千穂以上に怪しいよ。多分これからそれなりに仲良くなるんだろうけど、でも実はラスボスでしたとか言われても、オレ全然驚かねえぞ。そん位怪しさ満点だよ。生徒会とか正直どうでもいいよ、こいつの怖さに比べたら。
…何だろうな、ファーストプレイでびくびくしてるのもあるんだろうけど。
とにかく、オレはこんな微妙な奴等だらけの中で孤軍奮闘しなきゃなんねえ訳か。…い、嫌過ぎる…。助けてサラー! 安西先生!(だから違)



●そんなアヤしさのつもりでは…

授業が終わったとほぼ同時に、さっきの皆守から声を掛けられて、椅子から5センチは飛び上がった葉佩九龍18歳。お前、気配ぐらいさせろよ!
「何びっくりした顔してんだ? せっかくこうして授業に出てきたんだ、クラスメートとして歓迎してくれよ」
…あ。何だ、そっちね。いや、オレこんな稼業やってっから、背後取られると構えちまうんだよ。悪ィ悪ィ。
それにしても、さっきは如何にも他人には無関心な無気力野郎って感じだったのに、声を掛けてくれるなんて、ちょっと意外。
「寮に帰るんだろ? 一緒に帰ろうぜ?」
………。
………………。
えっと、引いていい?(汗)
つか、オレより寧ろ親の方が固まってるっつーか(コントローラーを取り落としやがった)。だってこいつの育った地方じゃ、男同士で帰ろうとか部活行こうとか言うのに『一緒に』なんて使わねえんだよ! 照れ臭ぇから! 九州男児だから!! 標準語じゃ使うのか!? そうなのか!?
「…いや…、外国育ちって触れ込みのお前に解り易い日本語を、という親切心だろ…」
取り敢えず、好意的に解釈する親。でもそんな親切心いらねえ。
「前世のトラウマがあるもんな。男と激愛になったりとか」
いらん事思い出さすなっ!!
ま、まあ気を取り直して。どうせ新入りを監視する目的だろうと(まだ皆守を疑いまくってる)思いつつ、断るのも何なので承諾して、いざ帰り道。
「女ってのは、面倒な生き物だからな」
なーんて皆守の台詞に、あ、こいつ女で苦労したんだと思って、つまりちゃんと(ってのは失礼だけど)女が趣味なんだと思って、親共々一安心。
っていうか、ていうか。
直後の八千穂との会話から察するに、こいつら、いい雰囲気っぽくねえ? オレ、展開上八千穂狙えるのかなって思ってたけど、出る幕無いかもな。ちぇっ。
そんなオレの心境を知ってか知らずか(でも絶対慮っちゃいねえだろう)、男子寮に着く前に、空き地で寝やがる皆守。ちょっと待て!
グラフィックではない、移動画面のアイコン表示って事も相俟って(昼休みの八千穂もだが、アイコンが髪型でちゃんと判別出来るのだ。って事はオレの髪型は丸っこいのか?)、芸の細かさに親は大爆笑。「こいつ気に入った!」なんて、昼休みの最悪な第一印象は何処へやらって感じだけど、日没まで放り出されたオレの身にもなれよ。
すっかり薄暗くなった事を恨みつつ、ペンギン声(オレじゃねえぞ、皆守がそう言ったんだ)のコスプレ少女も軽くかわしつつ。
さ、いざ本職。昼間の仮面を脱ぎ捨てて、トレジャーハンター出陣ってね。
でも、正直気が進まねえんだよな。転校初日からいきなり動くのは不用意だし、何より昼間の会話の感じから、なーんか嫌な予感がするし。
…って、思ってたらやっぱり居やがった八千穂&皆守。お前らもう、二人揃ってかかってくるか?(涙)
肝心の墓地探索はロクに進まねーし、また地下に潜らなきゃならねえみてえだし(それって墓穴? やだぞオレ、死体掻き分けて進むの)。おまけに夢に出てきそうな不気味なじーさんに出くわすし(ゲームをしたのが深夜だったので、親は相当ビビっていた)。
ああ畜生、今日は厄日だ…。


 


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