バースデイ・パーティ |
いやしかし、ここまで愉快な奴は見た事が無いね。 「どわあああっ!?」 3歩歩けばモンスターに遭う。座ればあられが降ってくる。しゃあねえから宿屋に泊まれば、今度は自分がベッドから転げ落ちる始末だ。 「うぎゃあああっっ!!」 傷だらけの人生ってのも、あながち言い過ぎじゃねえな。どっかで疫病神でも拾ってきたのか?…いや待てよ、無限のソウルってのがそもそも疫病神なんじゃねえだろな。 よし、ちょっと近付くのやめとくか。 「〜〜〜ゼネさんっ!! アンタちったあ手伝えよ!!」 数歩先で目くじら立てる、ボロ雑巾みてぇな疫病神…もとい無限のソウル・ロキソニン。 こいつが俺の今の旅仲間だ。 「わーりィわりィ、お前さん達だけでも大丈夫かと思ってな」 「ドコが大丈夫に見えんだよ!」 涙目でそう怒鳴るロキソニンは、実際雑巾並にズタボロだ。 ま、要はデスとリッチとキマイラがわんさか居る部屋に入っちまったからなんだが、隣で同じ様に戦ってたとっつぁんとエステルは、まるっきり無傷だってのが泣かせるね。 つまりアレだ、敵さんがロキソニンに集中攻撃浴びせたワケよ。 見ようによっちゃ、じゃれついてる様にも思えたがな。 そんなトコ邪魔しちゃ悪ぃだろ、なあ? 「だーーーっ! ドコ見てんだ、人と話す時はちゃんとこっち見やがれ!」 うお、危ね! 竜破ぶん回しやがったコイツ。 「お前さん、それが仮にも一緒に冒険出てくれって頼んできた人間の態度かい?」 「オレは『退治依頼があるから行ってみねーか』っつっただけだコンチクショウ!」 「そうムキになりなさんな。またホモ疑惑が起こるぜ」 「いらねえよ!!」 目に見える程鳥肌を立てて、ロキソニンが叫ぶ。 当然だ。俺も、野郎とどうこうするつもりはさらさらない。 「けど、お前さんに疑惑があんのは事実だろ? とっつぁんとも激烈に盛り上がってるし…」 「これ、わしはこやつを孫の様に思うとるだけじゃぞ」 赤い鎧から突っ込みが入ったが、さりげなく無視。安心しろとっつぁん、マジで疑ってるワケじゃねえから。 「エルファスにも熱い目で見られてたろ? 他にもセラだろ、ナッジだろ、レーグだろ…」 「あ〜の〜な〜〜〜!! あのバカ猫から何聞きやがったか知らねえけど、オレはヤローよか女と仲良いんだ!! ザギヴさんとか!アトレイア様とか!アイリーンとか!カルラとか!全員きっちりしっかりはっきり激愛なんだよ!!」 「……ふ〜〜〜ん、そうなんだ。へえ〜〜〜……」 「―――!! ち、違っ…わーエステル待てよ!」 …いや、マジで……ここまで引っ掛かり易いヤツも珍しいよな。 「ゼネテス……あまり苛めんでやれ……」 とっつぁんとっつぁん、笑いながら言ったって全然説得力無えぞ。 「しゃあねえだろ。面白えんだからアイツ」 「フフフ…気持ちは解らんでもないが、アレも一応真剣なんじゃぞ」 「エステルの事だろ? 分かってるよ」 「うむ?…ああ、いや、今日はちと違うがな」 ん? 何の話だい? …だが聞き返す間もなく、ロキソニン達が消えた扉の向こうが騒がしくなる。 俺ら二人がそちらを見ると同時、バン!と扉が開いた。 「ゼネさん! とっつぁん! 悪ィ、そっち行った!!」 取り逃がしたのだろう、警告が飛んでくる。 …言われなくたって分かってら。もう目の前にいるぜ。 退治依頼に出てた、此処のモンスターのボス格―――デスだ。 さっきの雑魚よりも妖気が強い。 「まだユーレイが怖ぇのか? ったく、しょうがねえな」 それとも、手柄を譲ったつもりかい? 10年早いぜロキソニン。 得物に聖属性を籠めるのに、刹那も要らない。 踏み込む一歩で充分だ。 ヒュ、と振り下ろした己の剣が、相手の肉を捕らえる快感。 手応えと同時、全身を駆け巡る、何にも代え難い昂ぶり。 ―――これだから、冒険はやめられねえ。 「うい。退治終わり、っと」 こん、と爪先で剣を蹴り上げる。 部屋から出てきたエステルが「カッコイイ…!」なんて言うから、まぁたロキソニンの奴が泣きそうになってっけど、知った事か。 「さ、とっとと戻って金もらって、酒場で一杯といこうぜ」 「あ、わり! 今日それ無し」 「…あん?」 どういうこったお前さん。誘っといて働かせといて、奢りの一杯もナシか? 「ちょ、ちょちょちょっと待った! ゼネさん目がマジだって」 「俺ぁいつだって真剣だぜ?」 「七竜剣突き付けて言われてもシャレになんねーよ! とにかく今日はちょっと…別の用事あっから、勘弁してくんねーかな」 「おい、何でさっきから俺の顔見ねえんだ? 人と、話、する時は、どーすんだっけ?」 「ううう、頼むから刃面で人のカオ叩くなよ……」 文句を垂れながらも、その日の内にどうにか町へ戻って、俺達は報酬を手にした。 当然と言っちゃあ何だが、かなりの額だ。 ロキソニンはそれを袋ごと押し頂くと、俺らを伴って、近くの酒場へ入る。 「酒場は駄目なんじゃないのかい?」 「酒場がダメなんて言ってねーよ。一杯がダメなんだ」 ……? ますますワケが分からねえ。 首を捻る俺の前で、ロキソニンは店主と何事か話し―――不意にこちらを向いた。 「さあ、ゼネさん! どれでも好きなの選べ!」 びし、と指差す先はカウンターの奥、ずらりと酒が並んだ棚。 中には50年物なんて逸品もある。 「…おい…ちょっと待て。何のハナシだ?」 「アンタ、今日が誕生日だろ?」 誕生日。言われてみりゃ、そういうモンもあったな。 「だからオレからのプレゼントだ。どれでも一本、好きなの選んでくれ。安かろうと高かろうと関係ねえ、樽一コ頼まれたって今のオレは払えるぞ。料理だって構わねーよ。ただし絶対1コだけな」 ……そういうコトか、と苦笑が零れる。 冒険への誘いも。大ボスとの対決も。報酬を使わせまいとしたのも。 全部俺のためのセッティングだったってのかい? 素直っつーか、ダイナミックっつーか。 無限のソウルだか何だか知らねえけど、こういう後先考えない奴は、ホント貴重だね。 来世紀まで大事にしたいモンだ。 「マジで何でもいいんだな? 後悔しねえな?」 「おう! オレも男だ、二言は無え! 酒でも料理でも―――」 「よし、決めた。お前さんだ」 「………………、は?」 予想外の答えに、呆気に取られるロキソニンから、金貨袋を取り上げ。 俺は満面の笑みで酒場客に向き直る。 「おい! 今夜は天下のロキソニン様が大盤振舞いして下さるってよ! 皆飲め、騒げ!!」 うおおおおっ、と店中がどよめいた。 外から見たら屋根か壁ぐらい動いたかも知れない。 「ゲーーーッ!! ちょっと待て、ンな事オレ言ってねえだろ!?」 少年は絶叫し、慌てて金貨袋を取り返そうとする。 必死に伸ばされる手が届かない高さまで袋を掲げ、俺はにやりと笑った。 「お前は何でも選べといった。だから俺はお前を選んだ。つまりお前は俺のモノ。お前の金も俺のモノ。何か間違ってるかい?」 「色んなモンが根本的に間違ってんだよ!!」 血の滲む様な叫びを繰り返すロキソニンだが、周囲がお構い無しにどんどん注文していくので、とうとう「あーもう持ってけドロボウ!!」と残りの全財産も投げ出した。 その隣で豪快に笑う所を見ると、とっつぁんは、ポケットマネーで手伝ってやる気だろう。 何せ、こいつの大事なエステルも、もうじき誕生日だ。 数日前に「女って何を喜ぶんだろ?」と聞いてきたのを、俺はちゃあんと覚えている。 …しかし本気で、俺の薦めた下着を買うつもりかね? まぁた一波乱ありそうだな。 それにしてもこの様子じゃ、店は朝まで宴会だろう。 誰も彼も酔い潰れて、死体みてえに床に転がっちまうに違いない。 けど、それこそ知った事か。 夜は長いが、人生は短い。どっちも楽しまなきゃ大損だ。 ―――そしてこいつらは、楽しみ方を知ってる。 ったく、これだからやめられねえ。 酒も、冒険も、こいつらとの付き合いも。 ゼネさんの誕生日祝いSS。誰が何と言おうと今回はこいつがメインでした(笑) しかしこの組み合わせは楽しかった…レムオンvsサファイアに次ぐゴールデンコンビ? |
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