ジルオール:ゼネテス&サファイア(女主)。
第一次侵攻後。中途半端に甘いかも。
貴方の広い背中に、早く追いつきたい。
だから、足跡を辿って、懸命に手を伸ばす。
キィン、と耳障りな音。剣を奪われる衝撃。
手元を確かめる間もなく、幅広の刃がひたと喉に添う。
「―――っ」
背筋が強張り―――やや遅れて、何かが地面に落ちる音が響いた。
「……参りました」
逸らさずにいた目を、初めて伏せる。剣が遠のく気配に息を吐き。顔を上げると、ひどく嬉しげな笑みが待っていた。
「結構、保つようになったじゃねえか。偉い偉い」
優しい言葉。ぐしゃぐしゃと頭を撫でる、大きな手。与えられるものに鼓動を逸らせつつも、サファイアは別の感情を優先する。
「それでも、負けには変わりないよ」
「そうか?」
「そうだよ。…まだ、遠いね」
最後の台詞は、口の中に留め。
ひとつ頭を振ると、少女は弾かれた剣を拾うべく踵を返した。頬に感じる冷たさに、まだ早朝だと思い出し―――彼に出会ったのも、丁度この時期だと気付いて、複雑な感情につい胸を押さえる。
大陸屈指の魔法使いとして評判のサファイアだが、決して、物理的な攻撃が苦手な訳ではない。旅に出る前、故郷の村では剣も喧嘩も一番だった。リベルダムの闘技場に出ても、片手剣だけで予選を突破するだけの腕は備えている。…ただ、剣狼との二つ名を持つゼネテスが相手では、今の所、足元にも及ばない。
(…5本やって、1本も取れないなんて……)
先程の手合わせを省みて、嘆息が漏れる。
…比べても仕方無い。彼女とゼネテスでは、戦い方が違う。得物一つとっても―――手に取った愛剣の重みに、サファイアの顔が曇った―――彼女には適度だが、“七竜剣”を振るう上司にとっては、簡単に弾けるほど軽い。しかも彼は、自らの大剣を、身軽なサファイア以上に素早く振るうのだ。戦士の理想と言うべき、鍛え上げられた体躯に、同じ土俵で挑む方が無謀である。
…しかし、剣の効かない化物が存在すると同様、魔法を使えない状況とて有り得る。敵味方入り乱れる戦場は、その典型だろう。…サファイアは生憎、その戦場で、上司を守るのが務めなのだ。
(逆に、足を引っ張ったりしたら、目も当てられない)
“ロストールの守護神”を慕う、王都の人々の為にも、副官である自分が守り抜かねば―――そう言い聞かせている自分に気付いて、少女は一瞬、眩暈を覚えた。
(…嘘、ばっかり……悔しいだけじゃない)
―――悔しい。全然歯が立たない。卓越した剣技が羨ましくて―――頑張っても敵わない自分が、不甲斐なくて。
轍を見つけて途方に暮れる子どもに、きっと似ている。
一生懸命走っても、もう追いつかない。そう思い知らされた時の様な。
(―――それでも、やっぱり追いかけたいよ)
8年の差は、大きい。サファイアが8年走り続けても、相手は8年分、彼方へ行ってしまうだろう。
…しかし、今の彼が居た場所には、辿り着けるかも知れない。
大切な人々を守れる力を持った、彼の地点になら。
―――そう思えば、滅入った気分も、少しは晴れそうで。
愛用の剣を握り直し、弾かれる前の軌跡を辿る。…ふと物音に気付いて、振り返ると、ゼネテスが傍らに両手剣を立てかけた処だった。
「腕力で敵わねえ相手にまで、力で競ろうとすんのは悪ィ癖だな。普段から、なるべく受け流す様にしてみろ」
腰に帯びた短剣をスラリと抜き、1・2・3、と翻す。
鮮やかさに見惚れながら、倣った形は今ひとつ。む、と顔を顰めたサファイアに笑い、男はその背後に回って、腕を添えた。
「こうだ―――肘ごと引け。手首だけだと折れちまう」
密着した体の感触に、女騎士の集中力はさても粉々に砕けてしまう。―――目標にする相手が親切で、しかも好きな人だなんて、何て都合が悪いんだろう?
うるさい鼓動を必死に無視して、切先を睨む内、「よし」と呟く声。
「そんな感じだ。―――どうする?試してみるか?」
…再度の仕合を促す、面白がる様な響き。仰いだ先の笑顔。
―――そう、見えるのは背中ばかりじゃなくて。
(こうして振り返って、手を差し伸べてくれるから、…笑ってくれるから)
―――だから、尚更追い付きたくなる。もっと頑張りたくなる。
両手剣を取り上げ、構える男を見つめながら。
浮き立つ想いに、サファイアは今日、初めて笑顔を零した。
貴方の轍に重なるように、ずっと付いてゆく私の轍。
…隣に並んで進める日は、いつか、来るだろうか。
これまた不発っぽいですね。わだちって難しい;
ちょこっと補足。
ゲームでは年齢不詳のゼネテスですが、
当方では開始時26歳(じき27歳)と考えてます。
お嫌なな方はごめんなさい。でも大体20代後半ですよね?
あと、当方の女主から見ると、ゼネテスって異様にいい人ですね。
実は彼、お題075・王国ver.の翌朝だったりするんですが…;恋って盲目。
(H15.9.4)
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