ジルオール:ロキソニン(男主)と仲間達。
シリアスに再挑戦…ああでもまた長い;
「………」
天幕の皺は、もう数え飽きた。
「………………」
しかし、瞼を閉ざすと、昼間の騒ぎが思い出されて。
(―――ああ、くそ! やっぱ眠れねえ)
跳ね起きたい気持ちを抑え、ロキソニンは慎重に身を起こす。
ここは、アキュリュース攻略に備えて設置された、白虎軍の陣営。兵卒やそれ以下―――つまりロキソニンのような若者達が、一つのテントに鮨詰めで寝ているので、暑い上に寝返りもうてない。
両脇の親友達を起こさない様、静かに表へ出る少年。途端、さあっと吹いた風の心地良さに、相当寝苦しかったのだと気付いた。
寝付けない原因など、分かり切っている。
(…っきしょお、何なんだよ、あのジラークって奴!!)
今日の昼間、ロキソニン達3人は、アンギルダンに従ってこの駐屯地に来た。待っていたのは白虎将軍ジラークの冷遇。彼等に―――アンギルダンに対する、無理解で理不尽な言動。
…思い出すだけで、食い縛った奥歯が嫌な音を立てる。腹立ち紛れに地面を蹴り、悪意を何とか飲み下した。
悪い人間ではないのだろう。あのネメアが登用した人材だし、何より同じコーンス族という事で、ナッジが尊敬している相手なのだ。…実のところ、それもあって不満を零せず、ロキソニンも、今は寝ているヴァンも、鬱屈を抱えていた。
―――自分の轍を確かめないと、進めない人も居るんだよ。
不意に、そのナッジの言葉が思い出される。何時だったか―――まだ旅に出る前、故郷で彼らが厭われていた頃の。
「自分がつけた跡を、何度も何度も振り返るんだ。真っ直ぐ進んでるか、他の人にはどう見えるか……それを確かめながら」
何故、と問うた自分は、今の様に苛々していた気がする。多分、街の誰かと揉め事を起こした後だったのだろう。
ボンガ夫妻を除く、殆どの大人たちは、ヴァンの父親や神官に頭を下げてばかりで、少年達の主張には耳も貸さなかった。何故自分で考えないんだ、と憤る自分やヴァンを、ナッジが宥めるのが常で。
「逆に、誰かが付けた轍を追う…そんな生き方しかできない人も居る」
―――どっちも面倒だ、って言ったら、ヴァンの奴が笑ったんだっけ。
「お前は、後ろから『曲がってるぜ』って言われても、『これが真っ直ぐだ』って言い張るヤツだもんな」
「道すら無視してかっ飛んでるテメーに言われたくねーよっ」
…それでぎゃあぎゃあ言い合って、結局ナッジも巻き込んで、やっと三人で大笑いした後の、夕飯の美味さは覚えてる。
―――ロキソニンは、そういう人も居るって事、忘れちゃだめだよ。
最後にそう言った、何処か悲しそうなナッジの顔も。
宿営地の外れ、岩の壁を爪先で蹴りながら、ぼんやりと思い出す。
旅の途中、コーンス狩りに度々出くわした。ナッジも幾度も狙われた。
(…ジラークも、そういう目に遭ってきたんだろうな)
気味悪がられ、或いは額の角を―――ひいては命を奪われるコーンス族。例え実力があっても油断できない。軽んじられたり、足元を掬われる事があってはならない。だから常に周りを警戒し、威圧し、隙が出来ぬよう一歩一歩慎重に歩んできたのだろう。
…そう想像は出来ても、ロキソニンの若さと、生来の真っ直ぐさが、やはり理解を拒む。
―――自分なら、そんな事はしたくない。例え轍を逸れてでも、信じた道を、顔を上げて歩いていきたい。
少なくとも彼は、そうやって生きてきた人物を、知っているのだ。
無謀とも思える生き様を、今なお貫く将。―――自分なら彼の様に…。
(……アンギルダン将軍の…よう、に……?)
ふと、胸に落ちた言葉で、周囲の闇が濃さを増す。
―――他人の足跡なんか気にしない。自分で切り開いてやるさ。
…そう思っていても、気付けば彼の目指す先には、常に誰かが居る。アンギルダンやネメアといった、偉大な冒険者達が。
(それって…結局、後ろ付いてくのと、同じじゃねえの?)
頭が真っ白になった、ロキソニンの耳に、微かな音が滑り込む。
…否、鳴き声だ。以前アキュリュースで聞いた声。
「……ミズチ?」
惹かれるようにそちらへ向かう。断崖が途切れ、視界が開ける。遥か向こう岸に水の都を望む、そこに立つ後姿を認めて、少年は思わず声を上げた。
「…し、将軍!?」
星明りの下でも見間違いようの無い、緋色の鎧。ややあって振り向いた老将は、いかにも闊達に近付いてきた。
「おお、ロキソニンか。どうした、眠れんか?」
「え、いや、まあ」
呻くような返答を、アンギルダンは笑い飛ばす。
「ハハ、わしもじゃよ。ここには酒がないのでな。こうなってみれば、アキュリュースにも攻め込もうが……あの街の酒場は、小綺麗過ぎてわしには合わん」
茶化した端に滲む、諦めの響きに、はっとロキソニンは仰ぎ見る―――が、既に相手は普段の笑みを浮かべていた。
「―――いらぬ心配を掛けたようじゃの。…許せ」
肩を叩く大きな手。不意にロキソニンは、親友が爺さんっ子である訳を理解した。泣きそうになって、慌てて俯き、拳を握る。
「…ロキソニン、人の進む道はそれぞれじゃ。わしが、ベルゼーヴァに警戒されるような生き方をするのと同じようにな。ジラークにも、兵達も、…アキュリュースの民達にも、それぞれの思いや、生がある」
老将の口ぶりは、彼方の水の様に穏やかだ。
「ジラークのやり方には、賛成出来んが、あの男なりの考えもあるのじゃろう。…わしらはせいぜい、被害を抑える為に努力しようぞ」
上司が宿営地に戻った後も、ロキソニンは立ち尽くしていた。
かつて傭兵隊長を務めた街に、攻め込まねばならない老将。掛けるべき言葉が見つからなかった。
―――自分が同じ立場なら、きっと逃げる。だが白虎軍とて、アンギルダンを慕う兵士は多いし、アキュリュースの住人も彼を覚えているだろう。…そんな人々を、アンギルダンは決して見捨てまい。何より、ネメアの理想を遂行する為に、この宿将は留まったのだ。
(…俺に、そんな事、出来るか?)
信念と、自分を信じる人の為に。死の危険を冒し、理不尽な仕打ちに耐える事が。
…アンギルダンは、今の少年では遠く及ばない、彼方の一等星だ。轍をそっくり辿ったところで、ゆうに20年以上かかるだろう。
西の空に、炎の色をした星を見つけ、ロキソニンはそちらに歩み寄った。
先程アンギルダンが居た場所に立つと、緋色の星はアキュリュースの真上に来る。炎と―――湖を渡る風と―――踏みしめた大地と―――ミズチの鳴き声。全てが少年の意識を洗い、研ぎ澄ませてゆく。
―――この感覚の中で、将軍は何を思ったのか。ロキソニンの知らない、水の都の思い出かもしれない。或いはロキソニン達の事かも知れない。それは判らないが―――とにかく彼は、闘い、守る事を決めた。
(…そう、真似するか、しねえか…そんなんじゃなくて)
何を為すか、どんな人間になるか。それこそが大事なのだ。
親友と誓った様に、大切なものを守れる男になる為。
…その過程で、誰かの轍に重なったとしても、構わない。
(俺はただ、あの赤い星を目指す―――)
輝きを見据えるロキソニンの耳に、ミズチ達の歌声が響いた。
ラストが不満。とっつぁん美化。ジラークファン様ごめんなさい;
最近長文が多くて困ります。いえ楽しんで頂ければいいですけど
無駄に長いのは…ねえ。
因みに、女主別バージョンも有ります。こちら。
(H15.9.4)
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