ジルオール:ロキソニン(男主)と仲間達。
予測済みの展開だったら済みません…(汗)。
彼は、激しく後悔していた。
屋外で荒れ狂う、春の嵐。
東海の彼方で春一番とか十八番とか言われるそれは、時折ドアに体当たりするような音を立て、窓ガラスをぎしぎしと揺らす。積み上げた薪や瓦も飛ばされているのか、時折、派手な音と悲鳴が上がる。
―――そんな中、テーブルに肘を付き、頭を抱えたまま動かない少年を、ヴァンとナッジは心配そうに覗き込んだ。
「ロキソニン…朝から、ずっとそうしてるよ?」
「どうしちまったんだよ? いつもなら『俺の季節だぜ!』つって飛び出しちゃあ、降って来た瓦を叩き割んのに」
悪ガキ仲間の誘いにも、ロキソニンは身動ぎ一つしない。こりゃ重症だ、と2人は顔を見合わせた。
「困ったなあ…アンギルダンさんも、エステルも心配してるよ?」
エステル、の名前が出た瞬間、ぴくりと震える肩。お、と思う間もなく、
「ぎゃ!」「わ!」
ドゴベキャ、と2人は頭からテーブルに突っ込む。支えていた腕を払われ…いや、急に引かれた為だ。
「…エステル…っ、エステル、俺……」
歯を食い縛った様な呻きに続いて、がば、と腕を握った張本人が顔を上げる。
「ナッジ!ヴァン! どうしよ、俺取り返しのつかねー事しちまった!」
…角と鼻が折れていないか確認していた親友達だが、切羽詰まった琥珀の目に文句を忘れた。
<竜殺し>と呼ばれる親友が、これ程焦るとは。
―――十股以上かけてたのが、とうとうバレたのか?
(いや、それもうバレてるし)
(だよな)
目だけで言葉を交わし、2人はどうにか腕を引っこ抜く。
「一体どうしたの? 大体、エステルはいつもどおりだったよ?」
極力穏やかに問うたナッジだが、ロキソニンの鬼気迫る形相に、擦っていた角を折りそうになった。その大柄な背にそそくさと隠れて、ヴァンはドアまでの距離を目測する。
後退る2人に気付かぬまま、少年は茶色の髪を掻き毟って叫んだ。
「何で…っ、何であの時エステルに…、
巫女服のまま冒険していいって言わなかったんだぁぁっ!!」
「………………は?」
目を点にした親友達に向き直って、ロキソニンはバン!と机を叩く。
「覚えてるだろ、エステルの巫女服!ラドラスで着てた奴!」
「ああ…まぁ…、それが?」
2人の脳裏に浮かぶ、金糸を織り込んだ薄手の布を纏うエステルの姿。地の巫女として目覚めて以来、ラドラスに行くと彼女は巫女装束で出迎えてくれるのだ。冒険中の、砂漠の民らしく全身をぴったり覆った格好とは、まるで印象が違う―――。
「あのヒラヒラした服なら、この風で、エステルの生足が見えるかも知れねーじゃねーかっ!!」
びし、と指された窓の外、吹き荒ぶ風に2人の心も掻っ攫われた。
「ロキソニン…お願いだから、目をキラキラさせないで…」
何だか悲しくなって、ナッジはそっと目尻を押さえる。―――初めて飛行機に乗った子どもの様なこの表情、何処かで見た覚えが……ああそうだ、教会の説教台に冬眠中のカエルを詰め込んで、知らん顔でミサに出た時の顔だ。
「…大体、あれスカートじゃねえから捲れねぇだろ」
対照的に虚ろな瞳のヴァンが、右手で少年を制する。
「それでも、ふくらはぎ位なら見えるかも知れねーだろっ?」
「…意外と慎ましーのな…」
感心すべきか呆れるべきか判断できないヴァンの隣で、
「ズボン…にしては、ひらひらしてるよね。キュロットスカートっていうのかな?」
現実逃避を決め、冷静に分析するナッジ。
「お、なーんで女の服の種類なんか知ってんだ?」
「え? な、な、違うよ! おじいちゃんが前に言ってたんだ」
何て。
突っ込みたかったが、微妙にオソロシイので2名はさらっと流す。
「…で、何で言わなかったんだ? “あの時”ってアレだろ、ラドラスで巨人倒した時。お前が一番ボーッとしてたくせに」
「だってお前、ンな可愛いカッコいきなり見せられたら!」
…つまり、見惚れるあまり言葉が出なかったらしい。
(目移りしやすい割にウブっつーか、要はガキなんだよな)
自らの言動を棚に上げて、尤もらしく頷くヴァン。
「けどよ、あれじゃ冒険に出にくいのは確かだろ」
「判ってるけどよー、せめて今日だけでも…」
言うだけ言うと、ロキソニンはまたもテーブルに突っ伏す。ばたばたと床を蹴る親友に憐れみを覚える内―――ナッジはふと、ごく自然な結論に達した。
「じゃあ…普通のスカート穿いてって頼めば、済むんじゃない?」
刹那、目の色を変えた少年達を見て、ナッジは咄嗟にゴッドハンドを唱えそうになった。
いっそ唱えた方が良かったかも知れない。
「ま…待てよ待て、待てったら。どんなスカート?」
「ザギヴさんみたいにすっげーミニとか」
「ぶっ!」
鼻血を出して倒れかけたロキソニンを、ナッジが慌てて支える。
「なな、何でそういう想像するの! もっと普通のカッコ、普通の冒険者!」
「普通の冒険者っつったら…」
「あの、魔術師みてーな、すげえ切れ込み入ったヤツ…」
「ぶふっ!」
「わああ、ロキソニン!ロキソニンってば!!」
血の気が多い少年達の騒ぎから、扉一つ隔てて。
「…ボク、ちょっとラドラスに戻っても、いいですか…?」
「まあ…無理には止めんが」
真剣に想い人を案じていたエステルと、何となく想像は付いていたアンギルダンが、2人してこめかみを押さえていた。
(どーーーして、男の子ってこうなんだろ、もう!)
次に彼等がラドラスに来ても、九柱の巫女服じゃなく普段のズボン姿で迎えよう―――と、エステルは拳を握ったのだった。
君達は本当に17,8歳ですか(笑)
途中「キャロット色のキュロット。…ぷぷっ」とか入れようとも
思いましたが、何だかマトモ過ぎたので却下。
(H15. 7. 10)
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