ジルオール:セラ&サファイア(女主)。
宿屋イベントその2です。
深夜番組


夜半を回ると、大通りには人が途絶える。
遠く酒場から聞こえるらしい喧騒を、宿屋の窓に身を凭せて、セラは聞くともなしに聞いていた。
静けさの中で、五感が研ぎ澄まされるかと言えばそうでもなく。旅で疲れた肢体の中、頭の片隅だけが妙に冴えている。
雨の前触れの様な、重い空気の所為もあるかもしれない。
湿り気のある風が、髪を撫でた。

(…忌々しい)

通りを見下ろしていた視線を上げれば、夜目にも解る程、重く垂れ込めた雲がある。
星明りはおろか、月さえも見えない夜空。
―――出口を見出せない今の己に、似ているかも知れない。

過ぎる思いを振り払う様に、頭を一つ振ったと同時、先程とは別の方向から風を感じた。
背後から吹いてきたそれが運ぶ、微かな血の匂いに、青年はふと藍の眼を眇める。
彼と同じ冒険者である少女―――“仲間”の匂い。
(仲間、だと?)
―――馬鹿馬鹿しい。そんな存在は不要だ。
共に行動しているのも、単に、あの2人の情報を求める為。
…しかし、“あの2人”を思い浮かべる度に募る焦りや苛立ちを、彼女と剣を振るう間は忘れられるのも事実。

―――あんたなんか、すぐ追い抜いてやるんだからな!

初めて会った時から、騒がしい女だった。
負けん気が強くて、何かといえばすぐに睨み上げてきて。
(それに、愚かで……)
…今もこうして、夜風に吹かれるセラの背後で壁に凭れ、“仲間”であるところの彼を見詰めている。
先程来た時に、名前を一度呼ばわっただけだというのに。
気遣っているつもりであろうか。
「……早く寝たらどうだ」
「あんたが先に寝ろよ。風邪引かれると困るんだ」
唯一の肉体派だからな。
残るメンバーがリルビー2人という、非力なパーティのリーダーは、昼間と同じつんとした調子で応じる。
そのくせ、背中に注がれる視線は、まるで違って。
…労わるようなその気配には、覚えがあった。

(―――ああ、姉の目だ)

いつの日も、セラを優しく包んでいた眼差し。
セラが捜し求めているそれ。

―――この女は、こんな目も出来たのか。

否、知っていた。
仲間のリルビーや、旅先で出会う子ども達に向けられる彼女の視線は、いつだって慈愛に満ちている。
(冒険者に、そんな甘さが必要なものか)
本当に愚かな女だ。
騒がしくて、愚かで、甘くて―――切ない。

「……話がしたい」

ふ、と滑り降りた言葉に、背後で僅かな瞠目の気配がし―――ややあって、それが静かに近付いてきた。
いつもどおり、目も合わせずに聞くかと思いきや、真横に立って真っ直ぐに見上げてくる。
―――騒がしくて、愚かで、甘くて、ひたむきで。
その一つ一つに、胸が締め付けられるのは何故だろう。

「…俺には、姉が1人居る………」

今のお前と、よく似た目をした人だ。
優しくて、弱くて―――。

(…いや、少し違うな……)
彼の姉は優しくて―――優し過ぎて、あれ程強大な魔力を持っているにも関わらず、自分以外の何かを傷付けるなど決して出来ない人だった。
だが、今目の前に立つ女は違う。
ひたむきに力を求めている。強くなりたいと願っている。
…その願いの裏に隠された、セラには仔細を知らされぬ、だが確かな傷跡。

(ああ、そうか……)

彼女の目は、己と同じ、孤独を知っている目なのだ。
己に重なる所があるから、こんなにも切ない。

(…では何だ? 俺も甘いという事か?)
む、とつい眉を顰めるセラ。
しかし、姉や親友の捜索とは関係無い冒険までも結局付き合う己が、酔狂な事をしているのは事実。
…夜風の所為だろうか、醒めているつもりなのに、普段の彼なら一蹴出来る筈の考えばかり、先程から巡っている。
(全く、これでは本当に酔狂だな)

口元を緩めると、少女が不思議そうに首を傾げ。
話の続きを視線で促すので、セラは再び語り出した。
長い長い物語を。





―――夜明けには、まだ時間がある。
現を何処か遠くに感じる冷たさの中でなら、この女に友情など感じている己の愚かさを話しても良いと思えた。


 


…番組は? ねえ、番組は!?(自己突っ込み)

こう、深夜番組を付けっ放しにして、
何となく無駄に語っている雰囲気を
出そうとしたけど、やっぱり無理でした…(ぽて)
翌朝、照れて目も合わせないだろうな、セラ。


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